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山と川をめぐり、水の循環をイメージする

~水の日・水の週間に合わせて特別ツアーを実施~

水の日・水の週間を前に、水源域や水管理の現場を楽しみながらめぐる「水を探すツアー」が7月20日に開催されました(主催:水の週間実行委員会)。
山から川、海から空へとつながる水循環の一端にふれるツアーを通じて、参加者はどんなことに気づいたのでしょうか。

水管理の現場で、水の旅に思いをはせる

今回のツアーは、水の日・水の週間の認知度を高める関係者向けイベントとして企画されました。 参加したのは、メディア関係者のほか、水インフラの専門家、土木専攻の大学院生、ダムファン、 釣り師など、独自の情報発信チャンネルを持つ人たちです。

池袋駅に集合した参加者を前に、国土交通省水資源部の長谷川聡専門調査官は、 「水の日・水の週間を通して、水の大切さや水循環の重要性への関心を高めたい。 今回のツアーでは、水循環という大きな視点で水の旅に思いをはせ、みなさんが感じたことをそれぞれのチャンネルで広く発信していただきたい」とあいさつしました。

この日の最初の目的地は、埼玉県秩父市の浦山ダムです。
荒川上流にある4つのダムのひとつで、1999年(平成11年)の完成以来、埼玉県や東京都の水道水の確保(およそ110万人相当)や洪水被害の軽減、発電など多様な役割を果たしています。 高さ156mのダムを見上げると、上部にあるアーチ形の意匠が目を引きます。
「あれは地元で親しまれている旧秩父橋をモチーフにしたもの。 最近のダムは地域のシンボルをデザインに取り入れることが多いんですよ」とダムファンの町田直子さん。

じっくりふれてわかる“ダムの人間くささ”

参加者一行はこの後、水資源機構 荒川ダム総合管理所の尾島知さんの案内で、ダム本体を横切るようにつくられた通路内を見学しました。猛暑の屋外から一歩中へ入ると、半袖では寒いほどの気温です。尾島さんによると、「分厚いコンクリートが断熱材の役割をするので、内部は1年を通じて13~15℃くらいです」とのこと。通路脇には検査装置が100か所以上も設置されており、ダム本体が受けている圧力や漏水量などを常にチェックしています。また、ダムは太陽光の熱などでコンクリートが伸縮するため、15~20mmほどの前後動を繰り返しています。この動きも専用装置で計測し、異常がないか確認しているとのこと。尾島さんの解説を聞いて、「ダムは無機質なものかと思ったら、人がそこに関わっていて意外と人間くさいものですね」と感想を漏らす参加者もいました。

続いて、エレベーターで堤頂へ。満水時には、旧秩父橋をモチーフにしたアーチがダム湖の湖面に映えるそうですが、この日は様子が違っていました。
秩父周辺では6月以降の雨が少なく、この日の浦山ダムの貯水量は65%ほど。
他のダムの貯水率も下がっているため、荒川では20年ぶりとなる荒川では20年ぶりとなる取水制限※が行われていました。
※8月25日(金)をもって全面解除されました。

ダムファンの琉さんは、「秩父のように積雪の少ない地域では、ダムの水はとても貴重。
この夏を乗り切っても、次の夏までに貯水量が回復しない可能性があるので、大切に使わなければ」と解説。
これを受けて尾島さんは、「ダムの水が無駄にならないように、きめ細かく管理することが私たちの役目。また、水管理の現場からみなさんに節水を呼びかけていきたいです」と話していました。

水利用のエリアを広げる“ヨコの循環”も

「水を探すツアー」の次の目的地は、山を流れ出た水が集まる川の中流域、埼玉県行田市と群馬県千代田町の境にある利根大堰です。
利根川の水の一部を取り込み、約14.5km離れた荒川に流し、埼玉県北東部の農業用水にするなど、首都圏の水利用を支える重要施設です。

利根川と荒川をつなぐ武蔵水路の着工は1960年代初頭のこと。高度経済成長によって人口集中が起きた首都圏では水道水の需要が急増し、特に東京 都は慢性的な水不足に陥るようになります。東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)の夏には、“東京砂漠”の流行語が生まれたほどの大渇水が 発生しています。
その翌年に武蔵水路が暫定的に使えるようになり、1967年(昭和42年)には利根大堰が完成。 利根川の水を埼玉県や東京都でも安定して利用できるようになりました。

参加者を出迎えた水資源機構 利根導水総合事業所の細山田真所長は施設について、「利根大堰は、水の利用を水平に広げていくための施設。水循環というと、山から川、海へとつながる“タテの循環”を想像しますが、私たちが意識しているのは“ヨコの循環”です」と紹介しました。

続いてNPO法人水のフォルムの藤原悌子理事長が講演で、関東平野の地質的な成り立ちから、16世紀以降に本格化した利根川・荒川の治水事業について解説しました。藤原さんは、「水のネットワークが整備された一方で、近年は富栄養化が進んでいる」と指摘。
「水はつながっているので、その影響は流域全体に及びます。水の道だけでなく、水の質にも目を向けていくことが大切です」と話しました。

太古から現代まで続く、水と人の営み

この後一行は、管理事務所の屋上から利根大堰を見学しました。
全長700mを12枚のゲートで仕切る堰は、水を取り込むことに加え、利根川の水量が増えた際に流れを妨げないように工夫されているそうです。

大堰の脇にある取水口からは毎秒90トンの水を取り込み、荒川につながる武蔵水路や邑楽用水路、見沼代用水、埼玉用水路に分岐させています。
武蔵水路は昨年改修を行い、大雨時などの地域排水を受け入れる機能も持たせているそうです。

「巨大な施設ですが、管理は繊細。 河川の水量などを見ながら1cmの誤差も許さないほどの精度でゲートを調整しています」との解説に、参加者からは「東京都にとっての利根川の重要性が、この場所へ来て初めてわかった」といった感想が出ていました。

浦山ダムと利根大堰を訪れ、水循環にふれた今回のツアーを通じて、参加者にはたくさんの気づきがあったようです。 「海に出るところまで水の流れをたどってみたい」「実家の近くにダムがあるので、もっと興味を持って見てみようと思った」「水を大切に使いたい」といった声のほか、「先人たちと現代の人々の努力によって水の恵みを利用できていることがわかった」「水管理施設には、人間の文明・文化としての魅力もあると感じた」など、 水と人の関係に着目した感想も聞かれました。

水の旅をたどりながら、水源地周辺の自然や観光スポットも一緒に満喫できる水探しツアー。どの地域でも楽しめるので、 夏休みの家族レジャーにもおすすめです。

※右の写真はダムをモチーフにした、その名も「ダムカレー」。ダムを訪問するともらえる「ダムカード」とともに盛り上がりを見せています。そんな、楽しめる場所としての水源域の活性化が進んでいます。


水を探すツアーに参加して

2017ミス日本「水の天使」
宮﨑あずさ さん

本当にいろいろな方々の努力が重なって、汗と涙の結晶が私たちの生活が支えられていると感じました。今度は、私が水の天使として、水の使用者である都民や、全国の人々にこのことをお伝えして、施設にも足を運んでもらえるように、少しでも水に興味を持ってもらえるように頑張りたいと思います。今日はありがとうございました。

中央大学理工学研究科都市環境学専攻(山田正研究室)
郷津勝之さん

浦山ダムでは、私たちの生活の根底を支える人々に出会い、ダムの性能だけでなくダムを支える人々の努力を知ることができました。私たちはインフラ等の構造物で安全が確保されるほど、その恩恵を感じなくなる傾向があるように思います。ツアーを通し、今後はインフラの効果を正しく広めていく必要があると痛感しました。

【謝辞】 ご講演をいただきました藤原悌子様、各所で解説いただきましたダムファンの琉さん、町田さん、本当にありがとうございました!!

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